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東京高等裁判所 昭和36年(く)95号 決定 1961年10月30日

少年 K(昭一九・九・二六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年の附添人弁護士中村吟造、同高橋功名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、先ず原決定第一の事実については、事実の誤認があるというのであるが、本件少年保護事件記録を精査するも、該事実について重大な事実の誤認が存在することはこれを認め得ない。所論は、被告人の所為は単なるいたずらで暴行の犯意を欠くのみならず、違法性をも欠くというのであるが、少年がパチンコ屋の女店員に対し暴行の意思をもつて原決定記載の所為をなしたことは明らかであつて、たとえ事柄は軽微であつても優に暴行罪の構成要件を具備しているばかりでなく、記録に徴し認め得べき犯行時の具体的状況に照らせば、該暴行が単なるいたずらで公序良俗に反せず違法性を欠くなどというべき筋合ではないことが明らかであるから、右主張は理由がない。

次に、所論は、原決定の処分は不当であるというのであるが、少年が原決定第二の強姦の所為を他数名と共謀の上行つたことは記録に徴し明白であり、該事実については何ら事実の誤認は存在しないのみならず、少年が該事件について主導的立場にあつたことも証拠上明白であるといわなければならない。所論は、本件について作成されている被告人の警察員に対する供述調書、同検察官に対する供述調書の供述記載は、いずれも不任意にして且つ真実に反するし、原裁判所に対する供述すらも迎合に基づく虚偽の供述であるという趣旨の主張をしているが、搜査官が少年に対し強制、拷問又は脅迫等を加えた結果不任意且つ虚偽の自白をなさしめたということは記録上これを認め得ないし、いわんや原裁判所に対する少年の供述が虚偽であるということは、これを窺うに足る何物も存在しないのである。のみならず、少年の右各供述を除外しても、各犯罪事実は被害者ら及びその他関係人の供述記載により至極明白であつて、事実認定の資料に欠けるところはないから、原決定の事実認定についてはその証拠にかけるという懸念は存在しないのである。

而して、被告人はさきに拳銃不法所持の廉により保護的指導を受けたものであるに拘らず、不良な生活態度を改めず、遂に強姦という犯罪を敢行するに至つたものであるが、その犯行の態様は、成年のこの種の犯罪のそれに比しても遙かに悪質であると認められるものがあり、これはひとえに少年の犯罪的傾向が濃厚であることを示すものに外ならないというべきのみならず、その家庭的環境においても将来の指導、監督能力を期待することができないから、原審が少年を遇するには、在宅保護では充分ではなく、相当期間少年院に収容して矯正教育を施さなくてはならないと断じたのは相当という外なく、所論の縷述する事情を参酌しても、原決定の処分を著しく不当であると認むべき事由は発見できないといわなければならないから、右論旨もまた理由がない。

以上これを要するに、原決定には重大な事実の誤認、処分の著しい不当はいずれも存在せず、本件抗告はその理由がないことに帰するので、少年法第三十三条第一項に則り本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 判事 井波七郎)

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